EUは、共通する文化を持つ国だけを選んで結成されましたが、それでもゴタゴタが絶えません。イギリスは脱退を決めたし、他の国でも脱退を主張する勢力が力を増しています。
EUの指導者たちは何とかしてEUを安定させようとして、加盟各国の文化の違いを認める戦略に出て、「多様性を認める社会」を主張しました。EUの社会内部に多様な文化があってよいことになれば、イスラム教徒が域内で暮らすのを拒否する理由がなくなります。
EUと共通通貨ユーロによって最も利益を受けるのがドイツです。競争力のあるドイツ製品は無関税でEU域内に輸出されます。また共通通貨であるためにドイツがいくら域外に多く輸出しても、他国がそれほど輸出していないので、ユーロの為替相場が高くなりません。ユーロ安によってドイツの産業は最大限の利益を受けています。
ドイツの産業界は何とかしてEUとユーロを維持しようとして政治力とマスコミを総動員しています。「多様性を認める社会」の実現に最も熱心なのもドイツです。こういう政策を掲げている以上、百万人単位のイスラム教徒のシリア難民を受け入れざるを得ません。その結果、大量の移民が入り込んで西欧はいま大混乱しています。
さらにEU問題をややこしくしているのが、少数民族の存在です。スコットランドはかねてからイギリスからの独立を、カタルーニャ州も同様にスペインからの独立を主張していました。EUの中央政府が各国の主権を抑えようとしているので、スコットランドやカタルーニャはこのような風潮を追い風に、自分たちの主張を声高に叫び始めました。
今や西欧は、EUとユーロを維持するのが利益になる勢力と、それによって損をする勢力や一般市民の戦いの場になりつつあります。
EU域内は、カトリック教会が1000年にわたって実際に統治してきたので、カトリックの文化が染みついています。またそれ以前は、古代ローマの大帝国が実際に統治していて、その文化を濃厚に残しています。このような好条件がそろっている西欧でさえ、統合によって様々な問題が噴出しています。