「ソ連が崩壊したのを目撃した中国共産党は、その原因を調べ、組織の腐敗と経済力がなかったことが、崩壊の原因だという結論を出した。習近平が行っている反腐敗運動と鄧小平が始めた市場経済の導入は、ここから導き出された」と中川先生は述べています。
今の中国の経済政策を、中川先生は、「強権アナーキー混合経済」と呼んでいます。一般人民やヴェンチャー企業は中国共産党員ではないから、法律が適用されます。その法律はガチガチだから、これを適用したらヴェンチャー企業は成長できません。
そこでこれから成長させたい経済分野で、ヴェンチャー企業の法律違反を見て見ぬふりをしました。その結果、社会主義体制下でイノヴェーションが起きたのです。ただし、これには続きがあります。
ヴェンチャー企業がある程度の規模に成長すると、法律を盾に政治的に屈服させるのです。アリババやテンセントが良い例です。アリババの子会社であるアントが香港・上海市場に上場するのを、直前になって政府が不許可にしました。またテンセントのゲーム事業を、「ゲームは子供に良くない」という理由で潰しにかかりました。
共産党はアリババやテンセントを国有化しようとしているのではなく、共産党の幹部を送り込んで、党の指導を受け入れさせようとしている、と中川先生は見ています。共産党は紀律を利用して、ヴェンチャー企業を支配しようとしているわけです。
習近平は、巨大になったヴェンチャー企業を支配下に置き、反腐敗キャンペーンを行っていますが、それは緩んだ法治と紀律治を復活強化して、官製アナーキズムを破壊して行こうと考えている、というわけです。
中川先生は、中国は「三権分立」ではなく、「五権分立一統制」だ、と言っています。立法・行政・司法という三権に、軍とメディアが追加されて、五つの権力が並立しています。軍とメディアを重視しているというのは、いかにも統制を重視する全体主義の発想です。
五つの権力が互いにけん制しながら活動しており、利害調整をしなければならなくなったときは、人事権を有する党が介入してバランスをとるということです。