これから、伝統的な考え方が中国人の行動に決定的な影響を与えていることを述べます。
アメリカの共和党のトランプ大統領は、「中国共産党は全体主義を信奉し、国内・国外で人権を侵害している。中国共産党を潰しさえすれば、中国はまともな国家になり、世界は平和になる」と言っていました。これに対して民主党は、「中国共産党に問題があるのではなく、習近平個人を排除すれば、中国はまともになり、問題の多くは解決できる」と考えているようです。
共和党も民主党も、「一般の中国人は普通の人で、問題は社会主義・全体主義という思想に染まった指導者個人あるいは中国共産党という集団に問題がある」と考えている点では、共通しています。
香港民主化の問題について、共和党も民主党も、「一般の中国人や香港人はFreedom(自由)を求めており、それを全体主義の習近平主席や中国共産党が弾圧している」というように考えています。
私はかねてから、このような考えに疑問を持っていました。中国が内外で人権を侵害しているのは別に社会主義という思想がメインの理由ではなく、中国人の伝統的な考え方から来ている。だから、共産党を潰しても、中国は変わらない、と思っていました。
最初に非常に細かい事例を紹介します。7月11日に中国共産党は、人口数万人程度の末端の行政機関(郷・鎮・街道)にある程度の警察権と司法権を与える決定をしました。どこの国でも警察権は、県や州単位で持っていて、それよりも小さい行政単位では、管理能力不足で何が起きるか分からないので任せていません。ところが中国は、市町村や区よりもっと小さな末端機関に与えてしまったのです。これによって末端組織のボス次第で、チンピラのような連中が住民を虐めるということが起きる、と考えられています。
このような共産党の決定を、「全体主義の中国共産党が、国民への統制を強めようとして、新しい弾圧政策を始めた」と考える人が多いと思います。しかし、これは中国の伝統の延長で起きたことです。
中国の歴代王朝では、科挙に合格した官が県に派遣され、県の行政全般の責任を負っていました。しかし官は実務が分からないので、地元で事務に精通した吏を私設秘書として雇って実務を行わせていました。吏は地元のボスたちなのです。
官は吏にそっぽを向かれると何もできないので、吏がする悪事には目をつぶっていました。このように中国では、チンピラのようなボスが小さな行政組織を実質的に支配するという伝統があるのです。今回の共産党の決定は、この伝統の上に乗って、地方のボスにある程度の権限を公的に認めた、ということです。