傭兵に頼る国はダメになる

日本が高い金を払ってアメリカ軍を傭兵する場合を考えてみましょう。まず、傭兵と兵士の募兵制は違います。傭兵というのは、軍隊をまるごと雇うことで、日本史上ではあまり例がありません。これに対して、国家が自前の軍隊を持っているが、その兵士を強制的に徴兵するのではなく、給与を払って募集するのが募兵制です。戦前の日本は、自前の軍隊を持っていて、兵士を徴兵していました。今の自衛隊は、自前の軍隊ですが募兵制です。

傭兵制の最大の弱点は、傭兵制を採用すると国がダメになるということです。日本には戦国時代の堺のような例外しかないので、西洋の歴史を見てみます。600年ほど前のルネッサンス期のイタリアの国家は、みな傭兵制を採用していました。

フィレンツェとかベネチアといった国家は、傭兵隊長と契約を結びました。傭兵隊長は自前で兵士を採用し、武器や食料を用意して戦ったのです。傭兵隊長にとって自軍の兵士は商売用の財産です。だからそれを減らすことを極端に嫌がりました。数万人の傭兵軍どうしが会戦し、トランペットを鳴らして勇壮に戦った結果、戦死者が2~3人という戦いもありました。

雇い主の国家は、戦争の目的を達成すると、用がなくなった傭兵隊長を解雇しました。そうなると兵士を食わしていかなければならない傭兵隊長は、盗賊に早変わりして、以前の雇い主の国土を荒らしまわりました。元傭兵の盗賊を討伐するために、別の傭兵を雇うということまでありました。

そういう時にフランス軍がイタリアに侵入しました。フランス軍は傭兵ではなく、貴族の将校と農奴の兵士からなる自前の軍隊でした。その結果、無能な将軍に率いられたフランス軍が、有能な傭兵隊長が率いるイタリア軍を鎧袖一触という感じで撃破したのです。ルネッサンス期のイタリアの思想家であるマキアベリは、傭兵制の実害を実際に経験して、『君主論』で徴兵制により自前の軍隊を持つべきだと力説しています。

フランス革命が起きる前の18世紀の西欧の軍隊は、自前の軍隊でしたが、嫌がる農奴をむりやりに徴兵した軍隊でした。絶えず監視していないとすぐに兵士が逃亡してしまうので、小部隊の自主性に任せることができませんでした。

このような軍隊の弱点を熟知していたナポレオンは、革命によって自作農になった士気の高い農民を徴兵し、破竹の勢いで西欧中を征服しました。ナポレオン戦争以来、西欧では市民としての権利を保障された国民による軍隊が原則になりました。今の日本は時代に逆行してアメリカを傭兵している珍しい国です。そして、いざという時にアメリカは本当に日本を守ってくれるのだろうか、と絶えず心配しています。

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