19世紀の西欧で仏教が流行った

仏教はキリスト教やイスラム教と並んで世界宗教と言われていますが、これを文字通りに受け取るべきではありません。仏教は世界中に信者がいるわけではなく、アジアの一部に偏っています。

小乗仏教は東南アジアにだけあり、大乗仏教が今なお盛んなのは日本とチベットだけです。仏教発祥の地であるインドでは、仏教は消滅してしまいました。支那や朝鮮では、かつては大乗仏教が盛んでしたが、今では衰微してしまい仏教国とはとても言えない状態です。

結局、世界の大国のなかで仏教の勢力が強い国は、日本だけなのです。また神道も日本だけの宗教です。神道と大乗仏教が日本文化の特徴であり、日本のユニークさはここから来ています。

戦前の旧制高校の生徒たちは「デカンショ節」をよく歌っていました。「デカンショ、デカンショで半年暮らす、後の半年は寝て暮らす」。デカンショというのは、デカルト、カント、ショーペンハウエルという三人の19世紀西欧の哲学者の名前を略したものです。戦前の教育は今と違って、哲学を重視していました。

ショーペンハウエルの哲学は、ひらたく言えば仏教の教義をドイツ語で説明したものです。またサルトルなどが唱えた実存主義哲学も一世を風靡しましたが、この哲学の根っこにあるのも仏教の考え方です。

19世紀のイギリスのケンブリッジ大学やフランスのソルボンヌ大学は、今では信じられないぐらいに仏教の研究が盛んでした。仏教の発想がキリスト教やイスラム教とまるで違うので、西欧のインテリが好奇心を刺激されて仏教をもてはやしたのです。

このように仏教は、キリスト教やイスラム教と比べてはるかに勢力が弱いのですが、それにもかかわらず世界の三大宗教のひとつに数えられています。それは、仏教が19~20世紀の西欧の思想界に大きな影響を与えたからです。