ミルの「自由論」は今でも参考になる

私は、ジョン・スチュアート・ミル(1806年~1873年)が書いた『On Liberty』をもう一度読むことにしました。私がこの本を選んだのは、日本と深い関係があるからです。この本が書かれたのは1859年で、明治維新の8年前です。これを13年後の明治5年(1872年)に、中村正直が日本語に翻訳し『自由之理』というタイトルをつけて出版しました。

この『自由之理』はベストセラーとなり、日本人は西欧の大原則であるFreedomを理解することが出来ました。明治初期に日本が必死になって文明開化を行った背景には、この本の存在があります。『On liberty』は、西洋哲学の古典で、いまでも『自由論』というタイトルで、岩波文庫と光文社古典新訳文庫から訳本が出版され続けています。

最初に言わなければならないのは、この本のタイトルが『On Freedom』になっていないことです。FreedomとLibertyは全く意味が同じで、ただ語源がゲルマン語起源か(Freedom)か、ラテン語起原か(Liberty)、という違いがあるだけです。

ジョン・スチュアート・ミルは、キリスト教を信じておらずFreedomがキリスト教の信仰から生まれたという重大な事実を一切書いていません。信仰の自由やそこから派生した思想の自由についても、ミルは正確なことを書いていません。本来、西欧のキリスト教社会には信仰の自由などなく、キリスト教であっても他宗派を認めませんでした。19世紀にやっと、キリスト教であれば他の宗派をも認めようということになったのです。そういう時にミルは、キリスト教だけでなくあらゆる宗教の自由を主張しました。

『On Liberty』は、Freedomがキリスト教から生まれたことを一切書いていません。そのために、この本を読んでFreedomを理解したつもりになった日本人は、後に欧米のキリスト教国との外交で大失敗をしました。

このような重大な欠陥はあるのですが、ミルが書いていることはキリスト教に関すること以外は、Freedomの考え方の基本的な構造を正確に描いています。

ミルは民主主義についても書いていますが、その内容は今でも参考になります。19世紀後半のイギリスでは、議会制民主主義が既に確立していました。また、社会主義の勢力が大きくなり、また男女平等の運動も大きくなっていました。要するに、現代と同じような社会になっていたからです。このようなことから、注意して読めば、『On Liberty』は今でもFreedomを理解するうえで、参考になります。

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