政府が強制できないことが、日本の弱点

最近になって、「政府が強制力を持っていないことが、日本の弱点だ」という意見を多く聞くようになりました。

その最初として、デイビッド・アトキンソンさんを取り上げます。彼はイギリス人で、アメリカの大手投資会社の幹部をした後、裏千家の茶道を学び、今では小西美術工芸という文化財修復会社の社長をしています。昨年、菅総理の諮問機関である成長戦略会議のメンバーになって、総理に経済的な提言を行っています。

このアトキンソンさんが、月刊Hanada8月号に「最低賃金引上げ問題 三村明夫日本商工会議所会頭の合成の誤謬」という記事を投稿しました。

彼は以前に本を出版し、「日本が経済成長しないのは、中小企業の生産性が低いからである。中小企業の統廃合を行って数を減らせば、日本の生産性は上がり、経済は成長する」と提言しましたが、各方面から非難を浴びました。私も、この時は議論が少し乱暴なような気がして賛成できませんでした。ところが今回の「最低賃金引上げ問題 三村明夫日本商工会議所会頭の合成の誤謬」は、納得できるものでした。彼は下記のように書いています。

「敗戦後の日本は、資金を重点部門に集中する「傾斜配分」という産業政策を実施し、それが成功した。ところがバブルが崩壊する頃には戦略なき国に変わってしまい、30年が過ぎてしまった。

その悪影響が如実に出たのが、ワクチン問題である。欧米先進国は、国家戦略として基礎研究に徹底的に取り組んでいたが、日本にはそのような国家戦略がなく、ワクチンを自前で作ることが出来なかった。半導体にしてもそうで、一時期は50%のシェアをしめた半導体も今では10%程度しかない。

ではなぜ、日本は国家戦略を実行することができなかったのか。それには三つの原因がある。

  • 政府の権限が弱く、強制できないこと
  • 民間が協力しないこと
  • エビデンスに基づいた建設的な議論ができないこと」

アトキンソンさんは、上記のように述べています。そして、3の「エビデンスに基づいた建設的な議論ができないこと」を主として論じ、一部の特殊な例を持ち出して全体に当てはめてしまうので、日本は「合成の誤謬大国」になっていると主張しています。その一例として中小企業対策に触れています。日本商工会議所の三村会頭は、特殊な例を全体に当てはめて最低賃金の引き上げに反対している、というのです。

私は、3の「エビデンスに基づいた建設的な議論ができないこと」もさることながら、1の「政府の権限が弱く、強制できないこと」という点に注目しました。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする