バブル崩壊後、日本は国家戦略を実行できない

デイビッド・アトキンソンさんは、バブル崩壊後の日本が国家戦略を実行することができなかった理由として、「政府の権限が弱く、強制できないこと」を最初に挙げています。そして、どの先進国を見ても、国策を普及させるには、三段階のアプローチが必要だ、と主張しています。

第一段階:目標を設定すること
第二段階:補助金などのインセンティブを出すこと
第三段階:義務化と罰金規定などによって、協力しない人に対応すること
日本は、第一段階と第二段階はやるが、バブル崩壊後は第三段階を、性善説が前提であったり、「私権の制限だ!」と叫ぶ反対も出たりして、ほとんどやらない。

私はこの部分を読んで、全くその通りだな、と思いました。日本も有効な国家戦略を行った時期がありました。アトキンソンさんが言ったように、敗戦後の日本は乏しい資金を重点産業に投入して、それに対する反対を抑えつけました。また明治初期には、重点産業に国税を投入して官営事業を行って近代産業を育成しました。そしてそれが軌道に乗ったら、安く民間に払い下げました。どちらも今なら、「自由競争に反する」「政財癒着だ」として大騒動になるでしょう。

経済面以外の面でも同じことが言えます。今回のパンデミックでは、欧米先進国は外出を禁止し、違反者には罰金を課しました。私権制限をやったわけです。ところが日本はあくまで「お願い」ベースで、義務化と罰金化を行っていません。

これは直接的には、憲法に緊急事態の規定(戒厳令)がなく、私権制限をすることが出来ないから、というのが理由です。しかし本質的には、今の日本には「政府が介入して私権を制限することは違法だ」という発想が蔓延しているからで、アトキンソンさんが言う「政府の権限が弱く、強制できない」というのと同じところからきています。

アトキンソンさんは、成長戦略会議では合成の誤謬だらけの議論の中で自分の役割は、一度立ち止まらせることだ、と述べています。例えば、梶山経済産業大臣が「事業再構築補助金」を説明した際に、「2万社から応募があった」と言った時、アトキンソンさんは、「2万社というのは全日本企業の0.55%にしかならない。GDP550兆円から1兆円出したとしても、それは相対的に少額である」と言ったそうです。

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