日本の都市には城壁がない

建設省の道路局長だった大石久和先生は、日本人とそれ以外の民族では、土木に対する考え方がまるで違う、とその著書の中で書いています。日本人は土木と聞いて、堤防を築くことと道路工事を思い浮かべますが、ユーラシア大陸に住む他の民族にとって、土木と聞いて城壁を作ることを思い浮かべるようです。この違いが、所有権に対する制限を認めるか認めないか、の違いにつながります。

大石先生はこれを説明するために、人気アニメである『進撃の巨人』の話を最初にしています。『進撃の巨人』は、攻め寄せる巨大な敵に対して、高い堅固な城壁によって町を守ろうという物語です。余計な話ですが、私はこのアニメが大好きです。

ユーラシア大陸では、農耕民を広い平原の向こうから遊牧民族が襲撃してくるので、農耕民は高い城壁で都市を囲い、その中に暮らして身を守るわけです。農民たちは城壁の外の畑で働くのですが、夜になったり敵が攻めてきたりしたら、城壁の中に入ります。彼らも都市の住民なのです。

遊牧民は財産や食料を奪うために都市を攻めるので、奪うだけ奪ったら住民に用はありません。だから、皆殺しにするか奴隷にするのです。このようなわけで、戦争による被害が尋常ではありません。日本以外のユーラシア大陸の民族は、例外なく城壁を作るのです。

一方、日本には大小の河川が多数流れており、その流域に村があって、その周囲は山と海岸によって外界から守られています。日本には大平原がないので遊牧民がおらず、村が彼らに襲われるということはありません。だから村を取り囲む城壁は不要です。日本の文明の一番の特徴は、城壁がないことです。

日本の城は武士だけが立てこもる要塞で、戦争は武士どうしがするものであって、城の外に暮らす百姓や町民には関係がありません。百姓や町民は、武士どうしが戦うのを外で見物しているだけなのです。室町時代に起きた応仁の乱を描いた襖絵には、武士どうしが合戦をしている様子を、農民たちが高台で弁当を食べながら見物している有様が描かれています。武士の方でも百姓や町民は敵ではなく、税金を払ってくれるありがたい存在です。だから武士は彼らを襲わず、大事にします。日本では、戦争による被害は大して大きくありません。

このように、土地の所有権は無制限だという日本人の発想が、外国人への土地を売ることへの規制を難しくしています。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする