失われた30年は中小企業のせいではない

アトキンソンは、「日本のGDPが増えないのは、中小企業が多いからだ」と主張しています。しかし、この主張はおかしいです。日本に中小企業が多いのは50年以上前からなのですが、バブル崩壊前は物凄い勢いで日本の経済は成長していました。

バブル崩壊後に日本の経済の成長が止まったのは、中小企業が多いのが主因ではなく、もっと他に原因があります。最大の原因は中国だと私は思っています。日本のバブルが崩壊したのと同じ時期に、中国は外資を積極的に導入し始めました。日本企業は国内への投資を止めて、中国に生産拠点を移しました。日本人に支払うべき賃金を中国人に払うようになったのです。経営者たちは日本の労働者と中国の労働者を競争させたわけで、日本人の賃金が上がらないどころか下がるのも当然です。

更に失政が重なりました。バブル崩壊後に銀行の不良債権処理を迅速にしなかったため、銀行は企業に融資が出来なくなり、かえって融資した貸付金を取り戻そうとしました(貸し剥がし)。このために企業は投資を行うことが出来なくなりました。また銀行が頼りにならないということを身に染みたため、企業経営者のマインドが冷え込んで、何もせずにひたすら利益を貯めこむようになりました。

需要が減少して不況になったのだから政府は景気刺激策をとるべきなのに、消費税を上げるなど益々景気が悪化するようなことをしました。このようにして「失われた30年」になったのです。実は日本政府が銀行の不良債権問題に間違った対応をしている、ということを早い段階で指摘したのは、当時外資系投資会社のアナリストだったアトキンソンでした。

だから彼も、日本の今の経済的停滞が政府の失策から来たことを良く知っているのです。ところが彼はこの問題を大きく取り上げず、中小企業の数が多すぎる事をクローズアップしています。中国への投資や政府の失政という根本的な問題を解決せずに中小企業対策だけをやっても効果はありません。

だから、経済評論家から、「アトキンソンさんは、国際金融機関の手先だ」などといわれるのです。アトキンソンの提唱する中小企業対策には、もっともだと思われることがたくさんあります。だから菅首相も彼の提言に耳を傾けているのでしょう。ただ、中小企業対策に集中しているのが問題だ、と私は感じています。

私はアトキンソンの著書を読みながら、昭和初期に行われた「金解禁(金本位制への復帰)」を連想しました。政府が金本位制に復帰するために、猛烈なデフレ政策をしました。その結果、日本は恐慌になってしまいました。国民は政府を信用しなくなり、青年将校たちが反乱を起こしてしまいました。

アトキンソンも、政府が市場に強力に介入すべきことを提言しています。これは金解禁と同じような一種の社会主義政策であり、Liberal Economyに反します。そして社会主義政策は、たいがいうまくいきません。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする