まずは、アトキンソンの説を紹介します。
彼は、近い将来、日本は急激に人口が減少する。日本ほど人口減少率が高い国はほかにない、と言っています。
国名 2016年人口(千人) 2060年人口(千人) 増減率(%)
米国 322,180 403,504 25.2
中国 1,403,500 1,276,757 -9.0
日本 127,749 86,737 -32.1
独 81,915 71,391 -12.8
英 65,789 77,255 17.4
仏 64,721 72,061 11.3
印 1,324,171 1,745,182 31.8
伊 59,430 54,387 -8.5
韓国 50,792 47,926 -5.6
露 143,965 124,604 -13.4
豪 24,126 35,780 48.3
日本は、45年間で高齢者の数はほとんど変わらないのに、生産年齢人口は42%も減少します。
・ 0~14歳(千人) 15~64歳(千人) 65歳以上(千人) 総計(千人)
2015年 15,827 76,818 33,952 126,597
2030年 12,039 67,730 36,849 116,618
2045年 10,116 53,531 38,564 101,210
2060年 7,912 44,183 34,642 86,737
増減率(%) -50.0 -42.5 2.0 -31.5
人口が3割以上減る中で今の日本のGDP535兆円を維持しようとすると、一人当たりGDPを今の423万円から617万円に1.46倍上げなくてはなりません。しかもその間に15歳~64歳の生産年齢人口が大幅に減るので、生産年齢一人当たりのGDPを697万円から1211万円に1.74倍にしなければなりません。こうしてやっと、高齢者に対する福祉の質を維持できるのです。
ところが日本の生産性(一人当たりのGDP)は、バブル崩壊後の30年間ほとんど増えていません。アメリカはこの間に生産性を大幅に増やし、日本を追い抜いてしまいました。
かつての日本は、世界の生産性(一人当たりGDP)ランキングで10位以内でしたが、今では28位です。これはイギリス25位やフランス26位よりも下で、イタリア33位やスペイン34位よりも少し上なだけです。
このように現在の日本の生産性(一人当たりGDP)が低い理由として、アトキンソンは、「女性を活用していない」とか「経営者が無能だ」などいくつか挙げています。その説明の中で、「子供のいない主婦は税金泥棒と同じだ」とか「奇跡的に無能な日本の経営者たち」などと、罵詈雑言をあびせています。アトキンソンの評判が極めて悪い理由の一つがこれです。
しかし、アトキンソンが日本の生産性(一人当たりGDP)が低い最大の原因は、中小企業が多いからだ、と言っています。中小企業の労働生産性が低いのは、世界共通なのですが、日本はその数が多いので、全体のGDPを押し下げている、というわけです。確かに大企業に比べて中企業の生産性は55%、小企業は41%と低いのです。
結論として、「労働生産性の低い中小企業を統廃合して数を減らし、労働生産性を上げよ、そうすれば日本全体のGDPが上がり、現在の高齢者福祉の質を落とさないで済む。最低賃金を年5%づつ上げていけば、中小企業の生産性は向上する。それについていけない中小企業は、退場してもらうしかない」とアトキンソンは主張しています。
この主張に対して多くの日本人が、「これは中小企業を潰せという主張だ。そんなことをしたら、失業者が激増して日本は恐慌になる」、と騒いでいるわけです。