日露戦争は、白人と黄色人種との戦いという側面があります。また日本と英国は同盟を結んでいましたが、イギリス王室はロシア帝室と親戚関係にあります。このような感情面の障壁のために、英国政府があまり積極的に日本を応援しないのではないか、といううわさが銀行家の間で広まっていました。
そこで是清は、銀行家たちといろいろ雑談をして、日本に対する理解を深める努力をしました。日本は国家生存のためにやむなく立ち上がったのであって、日本に正義があることを説明しました。また、日本は２５００年間、万世一系の皇室を中心とし、老若男女結束して最後の一人まで戦ってはじめて已むという伝統があるのだ、という説明もしました。
イギリスの銀行家は日本の事情に暗かったので、是清の説明を非常に興味深く聞いていました。そして次第に心を開いて是清と話しをするようになりました。ロンドンに着いてからの１ヶ月間、是清は銀行家の感情的障害を取り除くことに注力し、それに成功しました。
このようにして、是清はイギリスの銀行団に国債を引き受けさせることに成功しました。利率６％、総額5000万円（500万ポンド）。その頃彼は、ユダヤ系アメリカ人の銀行家であるジェイコブ・シフと偶然知り合い、シフも5000万円を引き受けることに決まりました。
日露戦争が白人と黄色人種間の人種戦争であり、イギリス王室がロシア帝室と親戚なので、イギリス人の多くは日本をおおぴらい支援することをためらっていました。その時にアメリカの銀行家も日本の国債に応募することになり、イギリス人は「アメリカも日本に同情している。イギリスだけではないのだ」ということが言えるようになりました。
この心の重荷を解消できたことをイギリス人はよほど嬉しかったらしく、イギリスの外務大臣は非常に喜びました。イギリス王エドワード７世陛下は、シフを食事に招待し、彼が日本の国債を引き受けたことに満足した旨を仰いました。
このようにして是清は、政府から命令された１億円（1000万ポンド）の国債売り込みに成功し、さらに１億2000万円も追加で売り込みできました。当時の中間管理職の月給が100円ぐらいなので、当時の１円が今の１万円に相当しそうです。従って２億2000万円は今で言えば２兆2000億円になります。当時の日本はまだ貧しく国家の財政規模も小さかったので、感覚的にはその10倍の22兆円ぐらいの国債発行に是清は成功した、と言えそうです。