前回に引き続き、中国のスパイの王立強の話を続けます。彼は台湾で工作するように命じられ、他人のパスポートを用意されました。そのために自分のアイデンティティーがなくなってしまうのではないかと心配になり、さらには自分の妻子の事も心配になってきて、オーストラリアの防諜機関ASIOに自首することにしました。
彼が台湾で命じられたのは、総統選挙で蔡英文の再選を、ネットを使って阻止することでした。ネットはある程度の年齢になれば扱うのは無理です。王立強が27歳と若いわりにこのような重要な工作を任されたのは、年配の上司が彼に工作を丸投げしたからです。
彼は若い学生に金を与えてアカウントを作らせ、それを蔡英文陣営のサイトに集中させてサーバーをダウンさせていました。また市民団体に入り込んで蔡英文の対立候補を支持させようとしました。
オーストラリア人は、彼の話を聞くことによって、中国は下記の四つの工作をやっているということを知りました。
・政治家の買収
・世論操作
・選挙への干渉
・要注意人物の監視
このように台湾で派手に活動したので、王は、いつかは自分がスパイであることが当局にバレる、と考えるようになりました。彼は台湾に大勢の中国共産党の工作員がいることを知っていたので、台湾当局に自首しても、自分の身の安全が確保できないと考えたようです。その点、オーストラリアの方がまだましだと判断して、オーストラリアの防諜機関に自首したわけです。
また、オーストラリアの国民や政府の反中姿勢を評価していたからのようでもあります。中国との関係を悪化させたくない国は、ひそかに王を拘束して、彼を取引の材料に使う恐れもありました。その点、オーストラリアはそんなことはしないだろう、と考えたわけです。
この事件が大々的に報じられたことで、オーストラリア国民の反中感情が決定的になりました。