老化は自然現象ではなく、病気である

『LIFE SPAN 老いなき世界』という本を紹介します。この本は今、世界中でベストセラーになっています。著者のデビッド・シンクレアは、ハーバード大学医学部で老化の研究をしています。

シンクレア教授は、「老いは病気だから直せる」と主張しています。この主張を文字通り解釈すると、人間は永遠に生き続けられるということになります。しかし、著者はそういうことは言っていないので、「老いなき世界」というタイトルは誇大です。

今まで、人間の寿命は120歳までだと思われていたが、それが150歳ぐらいまで伸ばすことができる、と言っています。さらに、100歳になっても今の50歳ぐらいに元気で、仕事もできるはずだ、とも言っています。

私は、この本には食事や運動など老化防止の方法が書かれているのだろう、と読む前に想定していました。私は3年以上前からこのような健康法を実践していたので、その科学的な仕組みを知ろうとして、この本を読み始めました。

確かに、この本には食事の仕方や運動などをする理由を科学的に説明していましたが、それだけでなく、老化防止の薬のことも書かれていました。たしかに、この本はベストセラーになるだけあって、良い本です。そこで、この本の内容を皆さんに紹介したいと思います。そして最後に、老化防止策を実践する際に、個人的に感じたことをも書きたいと思っています。

人間の遺伝子には老化を促進する遺伝子は無く、体にも老化を招く機能はありません。つまり、老化は自然の摂理ではなく病気なのだ、と著者は主張しています。

最初に老化の仕組みを説明しなければなりません。実は、老化の仕組みは単細胞の原始生物も人間も基本的に同じです。

単細胞の遺伝子の中に、AとBという「長寿遺伝子」があります。
遺伝子A:環境が厳しいとき(水がないとか、寒いとか)にスイッチが入って細胞の分裂を停止させる
遺伝子B:遺伝子Bから作られたたんぱく質は、環境が好ましい時には遺伝子Aが働かないように、遺伝子A に取り付いている

やがて単細胞生物の中から「偉大な単細胞生物」が生まれました。この生物の遺伝子Bは、DNAの修復をするようになりました。細胞の遺伝子が壊れると遺伝子Bから作られたたんぱく質は遺伝子Aから離れて、DNAの修復を行います。遺伝子Bから作られたたんぱく質がいなくなるので、遺伝子Aのスイッチが入り、DNAの修復が終わるまでは細胞分裂(生殖)は行われません。

やがて「偉大な単細胞生物」が複数の細胞を持つ高等生物に進化していきました。それに連れて遺伝子Bが「サーチュイン」に変化しました。壊れた遺伝子を修復するだけでなく、iPS細胞に対して、体のどの部分の細胞になるのかを指示する役割をも、持つようになったのです。そして、サーチュインの働きが衰えることが、老化現象なのです。