江戸時代後期には、いろいろな藩が藩営事業をはじめましたが、商人を介さないので利益は全て藩に入ります。薩摩藩は500万両の借金を抱えていました(藩の税収が年間せいぜい20万両未満だったので、それより借金の利息の方が多かったのです)。そこで砂糖の藩営事業をはじめ、それが大成功しました。そのうえ江戸・大阪・京都の商人から借りた借金を踏み倒して財政再建に成功し、明治維新を成し遂げる財政基盤を作りました。
幕府直轄領である江戸・大阪・京都の商人が薩摩藩からひどい扱いを受け、倒産した金貸しも出たのですが、幕府は彼らを守ろうとはしませんでした。幕府はこれらの商人から税金を受け取っていないので、強大な薩摩藩や同じように商人からの借金に悩む他の大名と大喧嘩をするリスクを背負ってまで、彼らを助ける義理はなかったのです。
商人からも税金をとるという大税制改革は、よほど強大な権力がないとできません。幕府はそれが出来ずに衰退していきました。
江戸時代に商人が非常に裕福になったのは、税制の不備が大きな原因です。ところが学校は、この事実を教えようとしません。なぜこのように単純で重大なことを教えないのか、私には不思議でなりません。
おそらく、「悪徳商人と悪代官が結託して民百姓をいじめた」というフィクションを守りたいと考えた人たちが、多かったからではないでしょうか。特に商人という「資本家」を敵視する人たちには、このようなフィクションは非常に心地よく聞こえるはずです。
「江戸時代は、大名が過重な年貢を百姓から搾り取り、悪徳商人がいたひどい時代だった」「戦前は、軍部が議会制民主主義を圧殺し、侵略戦争をした。これもひどい時代だった」、というフィクションが日本中に拡散しています。
このようなところにも、「国家は悪いことをする」という考え方を浸透させようとする動きが見え隠れします。