会社法の歪み

麦を作るのに堤防を築いて複雑な水のコントロールをする必要がなく、広い平地があればできます。麦作中心の西欧では日本のような村中総出の共同作業は不要なので、大勢の血縁関係にない者を仲間と考える「家」という発想も生まれませんでした。農作業を通じて「互いに助け合う」という考え方は育たなかったのです。

日本人にとって家(企業)に所属しそこで働くことは特別の意味があり、生きがいでもあります。しかし欧米のキリスト教国にとっては、企業は儲けるところ・月給を得るところ・自分の才能を発揮させるところであり、どうしてもその企業でなければならないということは、ありません。

欧米の企業と日本の企業は本質的なところで違います。ところが日本の企業を規制する会社法や労働法は明治時代にロエスレルというお雇いドイツ人が作った商法がもとになっていて、西欧の発想でできています。

日本の企業は家ですから、そこで働く正社員みんなが共同で所有するはずのものです。ところが欧米の会社は株主が所有者であり、社員は単なる雇われ労働者です。会社法が規定する取締役は株主の考え方を社内に徹底させるために存在するのであって、企業の実務を行うことを予定していません。ところが日本の企業の取締役は部長に毛が生えただけのもので、日々の実務しか行っていません。最近は「家」であるところの企業を商法の規定に合わせようとして、いろいろ組織を工夫しているようですが、未だに表面的なものにとどまっています。

欧米の会社員は労働力を提供するだけの存在で、特にその地位を保障されているようなものではなく、かつては簡単に解雇できました(今は簡単ではありません)。労働者を簡単に解雇できる頃の欧米の会社法の発想を受け継いでいる日本の労働基準法では、30日以上前に解雇を予告すれば労働者を簡単に解雇できます(第20条)。そもそも例外を除いて一年以上の雇用契約を締結してはならないのです(第14条)。

日本の企業は、非正規雇用者には上記のような労働基準法を適用しています。その一方で正社員に対しては全く別の扱いをします。企業とその企業の従業員が作っている労働組合とが労働協約を締結して、組合員にはボーナス・退職金・有給休暇・福利厚生など非常に良い待遇を保証しています。正社員は全員が労働組合に加入するので、会社は正社員に対して良い待遇をする義務があるのです。

このように、非正規雇用者には労働基準法が適用され、正社員には労働協約という全く別の特別ルールが適用されます。正社員でない非正規雇用者が労働協約に則って正社員と同じ待遇を要求することはできないのです。

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