多くの人は、インドではいまだに仏教が幅広く信じられていると考えているようですが、実は仏教は滅びてしまいました。20世紀になって仏教復興運動が起こり、今では数百万の信者がいますが、13億人の人口の中の数百万人ですから、微々たるものです。
3000年以上前に北方からアーリア人がインドに侵入して現地人を奴隷にし、インドにカースト制度に基づいた社会ができました。この極端な人種差別・階級差別社会の基本的な構造は、今でも続いています。
仏教は差別に反対し人間の平等を主張する宗教で、インドのような差別社会では少数派にすぎません。だからインドで仏教が広まる可能性は少なかったのです。ところが、紀元前3世紀から500年ぐらいの間のインドの特殊な事情により、仏教は思いがけず栄えました。
この時、西の地中海ではローマが大帝国を築きつつありました。豊かになった支配者たちは、インド産の絹織物、染料、香辛料などを買いました。対インドの巨額な貿易赤字に苦しんだため、ローマの元老院はたびたび倹約令を出したほどです。
ローマへの輸出でインド商人たちは大富豪になりました。インドの商人はカースト身分が低く何かと差別されていたので、人間の平等を主張する仏教に帰依しました。
彼らがマウリヤ王朝のアショーカ王に巨額の献金し、王が仏教を手厚く保護したために、仏教はそれまでの微々たる存在から一躍大宗教になりました。
ローマが衰退すると同時にインドの商人も没落し、パトロンを失ったインドの仏教も衰微しました。12世紀の終わりごろ、インドに侵入したイスラム教徒が僧院を襲撃し、僧侶たちを虐殺したために、インド仏教は消滅しました。