アメリカの開拓地は人口が希薄なので、教会堂を建設してそこに近所の信者が日曜ごとに礼拝に通う、ということができません。その代わりに巡回牧師がいました。馬車に家財道具を積んだ牧師が郡内を移動しながら、日時と場所を決めて礼拝を行っていたのです。
たまに近くに巡回牧師がやって来るときは、周辺地域はお祭り騒ぎになりました。近くに住んでいる家族全員が馬車に乗って会場にやって来るので、その人出を期待した行商人が店を開きます。開拓民たちは、説教会場で久しぶりに会った開拓民家族と話しをすることができ、ショッピングも楽しめます。
開拓民たちが集団的興奮状態になった頃に、巡回牧師の説教が始まりました。牧師は、開拓民たちの日頃のキリスト教徒らしからぬ生活を非難し、このままでは地獄に堕ちると脅しました。そうすると開拓民たちが涙を流して大声を出して懺悔をしたのです。
一度の説教会で数百人の開拓民が、悔い改めて「今後はキリスト教徒らしい生活をします」と誓いを立てました。このようなことが18世紀に盛んに起き、アメリカはすっかり厳格なキリスト教社会に戻っていきました。18世紀に起きたこの現象を「大覚醒(グレート・アウェイクン)」と言っています。
西欧諸国に啓蒙思想が広がりキリスト教の信仰が弱まった頃、アメリカではかえって信仰が強まりました。この状態が今でも続き、アメリカ社会は西欧諸国に比べてはるかに、キリスト教の影響を強く受けています。
大覚醒の時代、親父たちは懺悔するときに、禁酒の誓いをよくたてました。そのためにアメリカでは、良いキリスト教徒はお酒を飲まない、という常識がいつのまにか出来上がりました。20世紀になって「禁酒法」が制定されたのは、キリスト教の団体が強力に禁酒運動を推進した結果です。
大覚醒によって、アメリカのキリスト教は勢力が復活しましたが、同時に非常に生真面目で融通の利かないキリスト教になりました。