これから、キリスト教の発想に日本人が染まると、「国家は悪いことをする」「日本人は放っておいたら、悪いことをする」という考え方になっていくことが多い、ということを説明します。
徳富蘇峰(1863~1957年)は、明治から戦前にかけての有名なジャーナリストで小説家徳富蘆花の兄にあたります。彼は戦前に、織田信長の時代から西郷隆盛が起こした西南戦争までの300年間の日本の歴史を書きました(『近世日本国民史』)。
この本の中で彼は、「南蛮人が日本の若い男女を奴隷にして世界中に売りさばいた」という史実を、書いています。彼はキリスト教徒でしたが、キリスト教が異教徒を平気で奴隷にする、という事実をきちんと書いています。さすがは大ジャーナリストで、ジャーナリストの責務は事実を報道することだ、という大原則をよくわきまえていました。
岡本良知(1900~1972年。東京外語大でスペイン・ポルトガル語を学んだ歴史学者で、南蛮時代の日欧交渉を研究した)は、戦前に『十六世紀日欧交通史の研究』を書いて、南蛮人が日本人を奴隷にしたことをはっきりと書いています。
徳富蘇峰と岡本良知が本を書いて、「キリスト教徒の南蛮人が、日本人を奴隷にした」という事実を公表したのは、戦前でした。戦後にこのような事実を記した本を出版した日本の学者を、私は知りません。ただ北原淳先生が『なぜ太平洋戦争になったのか』(2001年出版)の中で日本人奴隷のことを書いているのは読みました。
北原先生は、アメリカのモンタナ大学を卒業し、スウェーデンのノーデンフェルト研究所で所長をされていたので、日本の学界の雰囲気とは無縁だったようです。どうやら戦後の日本の歴史学界では、キリスト教国が日本人を奴隷にしていた事実を公表するのは、タブーになっているようです。
なぜ戦後になって、タブーになったのでしょう。