違法を適法に変える力

どのような国家体制も、現在の状態が永遠に続くという前提で憲法や法律を作ります。「もしも革命が起きたら、このようにして新しい憲法や法律を作りなさい」などとは、規定しません。

新しい権力は、必ず非合法の状態で始まります。フランスの「国民議会」にしても、スタートした段階では非合法でした。ところが国民議会が民衆を指導し扇動してフランス革命をはじめ、いつの間にか社会の多数派の支持を受け、合法になってしまい、憲法を制定したのです。

ではいつ非合法が合法に変わるかと言えば、国民の心が入れ替わった時です。どういう場合に国民の心が入れ替わったと言えるのか、という具体的基準などありません。国民のみんなが納得した時、としか言いようがありません。

平安時代の唯一の合法政府は京都の朝廷でした。そこに源頼朝が現れ、軍事力と経済力を握っている武士たちを従えて、鎌倉に非合法権力を作りました。この非合法権力の軍隊が朝廷軍を打ち破り、平家などの反対勢力を壊滅させて日本を安定させました。その時に日本人の心が替わり、鎌倉幕府を合法的なものと認めたのです。

その後日本人は、武家の幕府が正統な権力だということを認めていました。ところが幕末になって、江戸幕府が日本を守れないことが明らかになりました。そこで天皇陛下を中心とした政府を作り日本を守ろうという尊王討幕勢力が現れました。官軍が鳥羽伏見で幕府軍を破り、さらに各地の佐幕勢力を壊滅させました。この大事件によって日本人は、天皇陛下を中心とした権力が合法になったことを納得しました。

時代が激動する時に、強力な勢力(例えば、国民会議に率いられたパリの民衆とか、尊王討幕勢力など)が出現します。憲法学は、このような勢力を「憲法制定権力」と呼んでいます。

「憲法制定権力」が従来の政権を実力で打倒して新しい体制を作り上げた時、国民の心が入れ替わります。そして新しい憲法が誕生するのです。