アコギ

私が生まれた市川の家は、伊勢の津が発祥の地で、今でも先祖代々のお墓があります。

このあいだ津の地図を調べていて、出身地のすぐ近くに「阿漕」という名の海岸があるのを見つけました。「アコギ」と読むのですが、そのときは読み方も知りませんでした。

あこぎという言葉は、「あいつはあこぎな奴だ」などと使うように、あまり良い意味はありません。「なんか変な地名だな」と思ってしらべてみたら、まさに悪口の「あこぎ」が生まれた土地なのです。

阿漕の浦は、伊勢神宮に供える魚をとるところで禁漁区でした。ところが平次という漁師が何度も密漁をしたので、捕まって簀巻きにされてしまったのです。そこから「あこぎ」とは「ひつこい」「あくどい」という意味を持つようになりました。

これだけだったらローカルな話題にすぎないのですが、それに西行法師がかかわったために「あこぎ」という言葉が全国に広まりました。

西行法師は、出家する前は佐藤義清という名の、かなり立派な武士でした。この義清が身分の高い女性に恋をしたのです。彼女は一夜だけ彼に情けをかけたのですが、義清がもっと逢いたいと迫ったところ、「あこぎ」と言われてしまいました。「しつっこいわね」というところでしょうか。

当時、「逢ふことを阿漕の島に曳く鯛のたびかさならば、人も知りなん」という歌が良く知られていたので、彼女はその歌にひっかけて、義清を袖にしたわけです。

義清は失恋の悲しみに耐えきれず、妻子を捨てて出家し、西行法師になりました。出家の時、泣きながらすがりつく幼い娘を縁側から蹴落としたそうです。

わが先祖発祥の地は、こういう所です。

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