尊王思想

光圀が彰考館の学者に『大日本史』編纂を命じたのは、「日本は昔から儒教の国だった」ということを証明するためでした。ところがまるで正反対の結論がでてきたので、編纂の作業はほとんど中断することになってしまいました。

日本人は昔から今まで、天照大神が日本を守り支配している、と考えています。

その支配の仕組みは『日本書紀』や『古事記』の中で説明されています。天照大神が孫のニニギのミコトを天上にある高天原から日本に天下らせ、日本の支配者にしました。ニニギのミコトやその子孫の天皇陛下たちは、天照大神をお祭りしてその神意を受け取り、その指示の通りに政治を行うわけです。

実は天皇陛下の即位式である大嘗祭も、この考え方で大昔から現在まで行われています。

大嘗祭を行うことによって、天皇陛下のお心に「天皇霊」というものが付着します。これはいわば「受信機」で、天照大神からのメッセージを受信するものです。天皇陛下は、受信したメッセージを日本人に伝えるのが役目です。

天皇陛下は「受信機」ですから、天皇陛下ご自身が道徳的であるか否かは、日本の政治と関係ありません。

保元の乱から南北朝までの間、不道徳な天皇陛下もおられましたが、日本人はそのことをさほど問題にしませんでした。それは、天皇陛下が儒教の皇帝のような存在ではなく、天照大神のメッセージの受取人だからです。

彰考館の学者たちも、次第に日本人の考え方が分かってきました。そのために、「儒教の考え方を基準とする」という『大日本史』編纂の方針を維持することが難しくなってきました。

学者たちは、天皇陛下とは日本人にとってどういう存在なのだろう、という問題を探究していき、その中から次第に尊王思想が形作られていきました。

尊王思想は、日本人の伝統的発想即ち神道に基づいています。

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