欧米には、国家を監視しなければならない、という発想がある

西欧の中世には統一国家など存在せず、国王と領主の所領に西欧は細分化されていました。それが統一された国家を形成し始めたのは、17世紀ぐらいからの絶対主義の時代になってからです。絶対主義の王権は、税金を課すとか若者を徴兵するとかを国民の了解を得ずに好き勝手にやっていました。

「国家の仕組みの基本が絶対主義の時代にできたので、今の国家もほっておいたら悪いことをする体質を受け継いでいる」と欧米人は今も考えている、と小室先生は主張しています。その証拠として、アメリカ法のDue Processの考え方を説明しています。

Due Processは警察が人を逮捕したりする時は、厳格な手続きを守らなければならないという考え方です。そしてその例として、ヘンリー・デンカーの『復讐法廷』という小説を読むことを勧めています。この小説は、老人が黒人の男を射殺したところから始まります。

老人の娘は黒人に強姦されて殺されました。色々な証拠からしてこの黒人が犯人であることが明らかなのに、彼は裁判で無罪になりました。事件が起きた州では、仮釈放中の人間を警察が尋問する場合は、かならず弁護士の立会いが必要だという法律がありました。警察官がこの黒人が一人で歩いているところを尋問しそのまま逮捕してしまったのですが、彼は仮釈放中だったのです。

弁護士抜きの尋問・逮捕という州法違反を警察がしたので、その瞬間に検察の訴えは却下されました。この黒人が犯人だと分かっているのに無罪になったので、頭にきた父親が彼を撃ち殺したわけです。

Due Processの考え方の根底には、国家はほっておいたら悪いことをするので、厳格なルールを設けて国家権力の行動を監視しなければならない、という考えがあります。具体的な事例でそのルールの適用が適切でないことはあるが、例外を設けたらそのほころびを国家権力が利用してどんどん悪いことをする、と考えるのです。

欧米の事例を持ち出して小室先生は、「国家はほっておいたら悪いことをするので、憲法によって監視しなければならない」と主張しました。それをマスコミが喜んで取り上げたのです。

以下はひと続きのシリーズです。

11月19日 キリスト教・神道と仏教は目的が正反対

11月20日 若いときに出家するという習慣は、仏教から始まった

11月21日 おしゃか様の出家生活は、すさまじかった

11月22日 出家は、もともとは家も友人も持たない厳しいもの

11月23日 仏教は世界的に見ると、勢力は弱い

11月24日 今の日本の社会問題の多くは、神道と仏教の使い分け原則が崩れたことに原因がある

11月25日 FreedomとEqualityの訳語に仏教用語を使ったために、使い分けの伝統が崩れた

11月26日 神道と仏教との使い分けが崩れたために、「国家は悪いことをする」という考えが広まった

11月27日 仏教は、無理してものを捨てなくても良い、と教義を次第に甘くしていった

11月28日 仏教は、欲望を抑えきれない凡人が戦争を起こす、と考える

11月29日 権力を監視するのが憲法の役割、という考え方をマスコミは悪用した

11月30日 憲法に違反することが出来るのは、国家だけ

12月1日 欧米には、国家を監視しなければならない、という発想がある

12月2日 欧米人が考えていたのは、「国家は悪いことをする」ではなく、「権力者は悪いことをする」

12月3日 マスコミは、「国家は悪いことをする」と思い込んでいる

12月4日 マスコミが権力を監視することは非合法であり、不要である

12月5日 地下鉄サリン事件やテロ事件によって、テロ等準備罪の必要性が高まった

12月6日 「国家は悪いことをする」と思い込んだ者たちは、テロ等準備罪に反対した

12月7日 「国家は悪いことをする」という発想が「安倍政治を許さない」を生んだ

12月8日 「国家は悪いことをする」と思い込んでいる者も、一種の愛国者

12月9日 刑事事件の被告は、国家権力からいじめられている者

12月10日 支那や朝鮮が行った残虐行為に言及しない

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする