若いときに出家するという習慣は、仏教から始まった

自分の大事にしているものが亡くなったら精神的に大きな苦痛を受けます。これが「苦」ですが、インド人は古代から際立って苦に対する感受性が強いです。苦から逃れるために自分の大事にするもの(家族、財産、地位など)を全て捨てるという「出家」という制度は、3000年ぐらい前からインドにありました。

古代インドに侵入したアーリア人の白人はバラモン教を信仰していましたが、バラモン教の目的も仏教と同じで「苦からの脱却」でした。その手段として出家をするということも仏教と同じです。

バラモン教徒の男たちは、一生を三つの時期に分けていました。子供の時は学び、成人して壮年の間は、仕事をして家族を養うのです。老年になって事業を子供に譲って隠居した後に全てを捨てて出家をしたわけで、現実の生活と宗教的な生活のバランスを重視していたのです。

今から2400年ぐらい前に、バラモン教からジャイナ教や仏教などの新興宗教が派生しました。これらの宗教は、「苦からの脱却」をバラモン教よりも重視していて、「壮年期は実社会で働く」というプロセスを飛ばして、若いときに出家することを奨励するようになりました。

おしゃか様は、29歳のまだ王子の身分の時に出家しています。父親は老齢なので、跡を継いで国を治める準備をしなければならず、小さな息子を育て上げる義務もありました。ところがおしゃか様はそれらの現世の役目を投げ捨てて出家してしまったのです。

おしゃか様は、シャカという部族の王家の跡継ぎでした。シャカ族の国は弱小で、マガダ国とコーサラ国の二大強国に挟まれて国家の独立が非常に困難でした。ちょうど徳川家康の領国が、織田信長と今川義元の間に挟まれていたような状態でした。

そういう状態で老齢の父とまだ幼い息子を置いて出家してしまったので、跡継ぎを失ったシャカ族の国の体制が弱体化し、おしゃか様が存命中にコーサラ国に滅ぼされて、一族のほとんどが殺されてしまいました。仏教のように若年で出家する制度は、社会的にかなりの無理があります。

以下はひと続きのシリーズです。

11月19日 キリスト教・神道と仏教は目的が正反対

11月20日 若いときに出家するという習慣は、仏教から始まった

11月21日 おしゃか様の出家生活は、すさまじかった

11月22日 出家は、もともとは家も友人も持たない厳しいもの

11月23日 仏教は世界的に見ると、勢力は弱い

11月24日 今の日本の社会問題の多くは、神道と仏教の使い分け原則が崩れたことに原因がある

11月25日 FreedomとEqualityの訳語に仏教用語を使ったために、使い分けの伝統が崩れた

11月26日 神道と仏教との使い分けが崩れたために、「国家は悪いことをする」という考えが広まった

11月27日 仏教は、無理してものを捨てなくても良い、と教義を次第に甘くしていった

11月28日 仏教は、欲望を抑えきれない凡人が戦争を起こす、と考える

11月29日 権力を監視するのが憲法の役割、という考え方をマスコミは悪用した

11月30日 憲法に違反することが出来るのは、国家だけ

12月1日 欧米には、国家を監視しなければならない、という発想がある

12月2日 欧米人が考えていたのは、「国家は悪いことをする」ではなく、「権力者は悪いことをする」

12月3日 マスコミは、「国家は悪いことをする」と思い込んでいる

12月4日 マスコミが権力を監視することは非合法であり、不要である

12月5日 地下鉄サリン事件やテロ事件によって、テロ等準備罪の必要性が高まった

12月6日 「国家は悪いことをする」と思い込んだ者たちは、テロ等準備罪に反対した

12月7日 「国家は悪いことをする」という発想が「安倍政治を許さない」を生んだ

12月8日 「国家は悪いことをする」と思い込んでいる者も、一種の愛国者

12月9日 刑事事件の被告は、国家権力からいじめられている者

12月10日 支那や朝鮮が行った残虐行為に言及しない