ものを持たないという原則が、どんどんゆるくなった

おしゃか様や最初期の仏教僧たちの生活はすさまじいものだったので、仏教の修業をしようという物好きは数えるほどしかいませんでした。ところがおしゃか様が活動していた頃から100年ぐらい経って、突然仏教の人気が出てきました。

紀元前3世紀に、ローマは地中海世界の覇者となり、その支配層はどんどん豊かになりました。彼らは絹織物や香辛料などインドの物産が大好きだったので、インド商人は対ローマ貿易で大儲けし、大富豪になりました。

インドのカースト制度では商人の地位が低かったので、商人たちは何かと差別され、商売も思うようにできませんでした。そこで大富豪となった商人たちは、階級差別や人種差別を認めない仏教の信者になりました。

大富豪の商人たちを支持基盤にしたのがマウリヤ王朝だったので、この王朝は仏教を保護しました。中でもあの有名なアショーカ王は、仏教を国教のように扱いました。大富豪の商人や国王が帰依したため、仏教は一挙に隆盛しました。立派な寺院が建設されたために、僧侶は野宿をやめ屋内で生活するようになりました。さらに食い物の心配をすることもなくなりました。

従来は、僧侶が布施として受け取っていたのは前日の夕食の残りだけだったのですが、金銀を布施しようとする信者があらわれました。これを受け取っても良いのか否かを巡って教団内で激論がなされ、ついに教団が分裂してしまいました。仏教学は、教団が分裂する以前を原始仏教、分裂以後を小乗仏教と呼び、二つを分けて考えています。

おしゃか様は、徹底的にものを持たないことによって、苦から逃れようとしました。しかし時代が下るにつれて、僧侶たちは、家や金銀を所有するようになりました。

仏教の歴史は、ものを持たないという原則がどんどん緩んでいく歴史です。ものを持ったら苦から逃れることはできないはずです。そこで僧侶たちはおしゃか様の教えに反して、「修行が足りなくても、神や仏が助けて下さるから、苦から逃れることはできる」と説くようになりました。

おしゃか様自身は、「神や仏が本当に存在するのかどうか分からない。だからそのようなもののことを考えても無駄である」と教えていたのです。仏教の歴史は、当初は無視された神や仏が、次第に活躍の場を広げる歴史でもあります。