自分の権利を国家に預ける

社会契約説を一言で言えば、「その地域に住んでいる人がみんな集まって国家を作る約束をし、自分の権利の一部を新たに作る国家に預けた」ということです。

大勢の人がどの国にも属さない場所に集まって国を作ったなどということは、現実にはありません。誰もがどこかの国の国民として生まれ、育つわけです。だから社会契約説というのはフィクションなのです。ジョン・ロックはそういう架空のモデルを想定して、国家のあるべき仕組みを考えたということです。

ジョン・ロックは、国家のない「自然状態」というのを想定しました。そこに住んでいる無国籍者はみな、思うがままに振る舞えますが、誰の助けも期待できません。強盗が家に入ってきたら自分一人で戦って撃退しなければならず、敵の軍隊が攻めてきたらあきらめて殺されるほかはありません。国が無いというのも、けっこう不便なのです。

そこで大勢の人間が集まって、国を作ろうという約束をしました。その時に、わが身を自分で守るという「自衛権」を新しく作った国家に預けるわけです。国家はみんなから預かった「自衛権」を基にして軍隊や警察を作り、個々人の代わりに国民を守るのです。

「自衛権」以外にも様々な個人的権利を国家は個人から預かって、国家権力を作り上げます。そして国家を維持するために、国民から税金を徴収します。国家は会員制クラブのようなもので、各国民は自分の権利を出資した会員なのです。そして国民としての地位は、宗族によって子孫に引き継がれます。

この社会契約説は、国王は何でもできるという王権神授説に対抗するための理論です。国家は国民から預かった権利を行使するための活動しかできず、会員たる国民の権利を侵すことはできません。