ハイエクの理論は、日本の現状を理解する助けになる

明治になって、日本はキリスト教の信仰から生まれたEqualityという考え方を、平等と訳し、それを憲法で規定して国民に保障しました。従って国民は、憲法を制定した当時の意図とは異なって、仏教の平等の考え方が正しい、と思ってしまいました。

仏教の平等は「全ての人間は全く同じだ」という意味ですから、「全ての人間に全く同じ扱いをするのが正しく、経済的格差があってはならず、身分で差別してもいけない」というのが正しい考え方だ、と信じ込んだのです。

このような伝統があるので、大蔵省の銀行局長や日銀の総裁は、格差是正のためには株や不動産の価格を無理やりに引き下げるべきなのだ、と思ったわけです。つまり国家の役人が市場に介入したわけで、これは「何が正しいかは国家が決める。国民はそれに従え」という社会主義政策です。

日本には、この種の正義感から国家が市場に介入する社会主義政策が多いです。消費税増税の本当に狙いは、法人税の低減を実現することにあるのですが、表面的には老人介護など福祉の充実のために必要だ、ということになっています。国費で介護を行い、国民を出来るだけ「平等」に扱おうという説明に多くの国民が納得させられました。

竹中平蔵慶応大学名誉教授は、小泉内閣の時に経済関係の閣僚として構造改革を行い、日本を再び経済成長させようとしましたが、強い抵抗に遭いました。反対の理由は、「構造改革をしたら貧富の差が拡大するのが困る。そのようなことになるのであれば、無理に経済成長しなくても良い」というものでした。

これまで説明したように、日本の経済は、日本人独自の考え方に大きく影響されています。それに対して、「人間は合理的な行動をするから、データをコンピュータで解析すればどうしたら良いかが分かる」という新古典派経済学で立ち向かっても、大して役立ちません。

ハイエクの、「人間は非合理で、外界を正確に認識できない。人間の脳の中には、過去の情報を整理した分類の体系が備わっている。人間はその内容を外界だと思っているだけだ」という発想は、日本の現実を見るために非常に有力な理論だと思います。

われわれは、日本人の伝統的な発想にもっと注目すべきです。

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コメント

  1. ソフィア より:

    現在世界中の政府がコロナウイルスに対する対策を取っていますが、ハイエクだったらどのような処方をすすめるでしょうね。
    一律給付金は社会主義だから駄目なのか
    減税して所得を増やし個人の判断でお金を使ってもらうべきなのか
    安倍さんの一律マスク配布は典型的な「社会主義的な愚策」なのか
    政府は何もせず、自由な個人による市場の自動調整を見守るのがベストなのか
    むしろこう言う場合は政府も積極介入した方が良いのか
    色々考えさせられますね

    それが妥当かどうかは別として、ハイエクだったら「感染のリスクも回避し、生活が成立する程度の経済活動」は「個人が肌感覚で理解している」のであり、「一人一人の置かれた状況を完全に把握できる訳でもない政府が一律に全国民にこうしろと命令するべきではない」と考えるのではないかと思います。その意味ではマスクを全国民に一律に配った安倍さんの「アベノマスク」は「やはり愚策」であり、マスクだけは有り余っている世帯もあるのだから、減税などで使えるお金を個人に戻し、個人の自己裁量で最善の行動を取ってもらうべきであると、そのような事になるのかもしれません。
    その意味では、一律現金給付はマスクを配るよりはマシだが、社会主義的なので基本は減税の方がベターと言うことになるでしょうか。

  2. 市川隆久 より:

    ハイエクは、laissez-faire(自由放任)は、未熟な考え方だと言っています。市場がちゃんと機能するように務める役目が政府にある、といっています。よく誤解されていますが、Freedomは政府が何もしない、ということではありません。
    また彼は、生活保護や失業保険は当然だとしています。これは社会が困っている仲間を助ける行為だからです。いけないのは所得補償(一定額の収入をどんなことがあっても保証するという制度、例えば公営企業が赤字なのに、従業員に多額のボーナスを出すなど))だといっています。
    マスクの支給は、市場経済への介入ではなく、社会を守る行為でしょう。一律給付金は、失業手当のようなものですね。ハイエクの発想はかなり柔軟ですよ。
    トランプ大統領はレーガン大統領の弟子を自認していて、レーガンはハイエクの信奉者です。だから2兆ドルといっているわけです。
    彼は、「これは戦争だ」とも言っていますが、これでFreedomを主張しています。「仮に2兆ドルが平時の政府の役割から逸脱しているとしても、国民を緊急に守るための正しい行為だから、この逸脱は許される」ということです。